移民船上のわが友 :ブラジルからの手紙
(著) 坂根修
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二〇一五年の暮れも終わろうとしている。
この年は国会周辺を取り巻くデモ隊の「戦争法案反対」を無視して安保法制が可決した。
書店には中国や韓国を批判した本がずらーっと並び、感情的な「プチ・ナショナリズム症候群」に陥っていて周辺諸国の脅威とのアンバランスが表立っていた。
日本は大きくその舵をきり、来年からの未来は予測できない渦の中に突入する難破船を予感させられる。
国内において、年金や健康保険などの社会保障の行き詰まりはいかんともしがたく未来に大きな不安を残し、日本の財政を困窮させるだろう。
都会にはワーキングプアーと称される、働いても生活が立ち行かない労働者層が増え、地方での商店街はシャッターを下ろす店舗が後を絶たない。
それでも今年度政府のスローガンは一億総活躍社会を目指すという勇ましいもので、そのうたい文句に国民はまだ期待していた。
温暖化による暖冬とはいえ、さすがに十二月の声を聞くと北風が身に染みる季節である。行き交う人はオーバーの襟を立て帰宅を急ぐ。
わたしは東京国分寺駅の改札を出て南口のロータリーを一段高い位置から見下ろしていた。横断歩道の信号が青に変わるたびに人の群れが右に左にと移動していた。(本文より)
【著者プロフィール】
坂根 修(さかね・おさむ)
1944年東京生まれ。
1962年東京都立農芸高校卒業。
東京農業大学在学中に南米ブラジルに渡る。10年後に帰国。
2年ほどのサラリーマン生活のあと、埼玉県寄居町で営農の傍ら「皆農塾」を開く。
1989年皆農塾分室を愛媛県肱川町(現大洲市)に開設。
現在に至る。
■著書
『都市生活者のための ほどほどに食っていける百姓入門』(1985年、十月社)
『痛快、気ばらし世直し百姓の塾』(1987年、清水弘文堂)
『ブラジル物語』(1988年、清水弘文堂)
『脱サラ百姓のための過疎地入門』(1990年、清水弘文堂)
『ベーシック・インカム(国民配当)投票に行ってお金をもらう構想』(2016年、文芸社)
『日本の進むべき道 ベーシック・インカム』(2016年、文芸社)
『明日のための疎開論』(2017年、文芸社)
『移民船上のわが友』(2018年、ルネッサンス・アイ)
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