西郷隆盛漢詩全集: 増補改訂版

(著) 松尾善弘

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作品詳細

ー本文よりー
西郷さんの漢詩はわかりにくいという風評がある。しかし、西郷さんの名誉のために一言弁明すれば、西郷漢詩が難解であると言うより、それをすんなり読み解けない側にこそ大半の責めがあると言う方が当を得ていると思う。
ひとり西郷さんの漢詩に限らず、現代日本人は日中漠詩人の漠詩をほとんど独力では読めなくなっている。「読めない」ときめつけるといささか語弊があるので、「正確には」という修飾語を冠しておこう。
幼少時から漢字を学習してそこそこの漢字力を身につけた日本人は漢詩漢文すなわち古代漢語を目で追うことによって、そこそこの意味を理解することができる。つまり、日本人は昔から漠字という「表意文字(今では漠字は『表語文字』と呼ぶのが正しい)」を利用して「訓読法」という翻訳術を編み出し、漢詩漢文の意味の大約を「字面上」で理解してきた。
ところが、日本人が古代漢語を訓読して読み下し文=日本古文に翻訳した途端、そこでは日中間に横たわる二千年の歴史と二千キロ以上にわたる時空の隔たり、更には日本語と漢語(中国語)という高い言語の壁をいともやすやすと観念的に乗り超えてしまったことに気が付かないできた。
かくして漢字力の低下に伴い、何よりも漢語(中国語)そのものを習得しない日本人は必然的に漢詩漢文から疎外されたまま読解力のじり貧状態を引き継ぎ現代に至っているのである。
さて、では現代日本人はどうすれば歴代の日中漢詩人の作品を正確に読み解くことができるようになるのだろうか。
それにはまず漢詩創作上の諸規則を明白にし、それを武器に使って一つ一つの作品を攻略し、詩人たちの「詩想」レベルにまで肉迫することであろう。
西郷さんがどの程度漢語(中国語)に堪能であったか、今では推測の域を出ないが、日常会話のレベルはいざ知らず、漢詩作品を精査するはどにその漢語力の見事さは鮮明になってくる。恐らく西郷さんは漢詩を基本的に漢字音をもとに創作したと思われる。かく言う筆者も先ずは中国語原音読みして後、訓読して読み下し文を添えた。本書の読者諸賢氏が自らの目でその創作過程を確認して頂けるよう、全詩に平仄を付し、諸規則の簡単な解説と共に西郷墨書からの誤写・諸伝本の誤植の訂正も含め参考に供した。

著者プロフィールーーーーー
松尾 善弘(まつお・よしひろ)

1940年 台湾・台北市にて出生。
1946年 鹿児島県出水に引き揚げ、小 ・ 中・ 高時代を過ごす。
1959年 東京教育大学分学部漢分学科入学。
1963年 同大学院中国古典学科・修士課程入学。
1967年 同上博士課程入学。
1971年 日中学院講師・法政大学・駒沢大学・早稲田大学の中国語非常勤講師。
1975年 鹿児島大学教育学部助教授。
1981年 同教授。
1997年 山口大学人文学部教授に転任。
2003年 同学部を定年退官。

《著書》
『漢語入門(発音編)』1989.4 白帝社
『漢語入門(文法編)』1993.3 白帝社
『唐詩の解釈と鑑賞&平仄式と対句法』1993.4 近代文芸社
『批孔論の系譜』1994.2 白帝社
『尊孔論と批孔論』2002.12 白帝社
『漢字・漢語・漢文論』2002.12 白帝社
『唐詩読解法』2002.12 白帝社
『唐詩鑑賞法』2009.12 南日本新聞開発センター
『日中漢字・漢語・漢詩・漢文論』2012.2 斯文堂
『大久保利通(甲東)漢詩集』監修 2012.12 斯文堂
『川路利良漢詩集』監修 2016.11 斯文堂

《電子著書(22世紀アート)》
『日中 漢字・漢語・漢詩・漢文 論』2015.12
『尊孔論と批孔論』2016.3
『唐詩読解法』2016.9
『漢語入門: 中国語初級テキスト 発音編・文法編(テキスト用音源ダウンロードコード付き)』2017.10

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