思い出の中の子供達

(著) 草場美佐子

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作品詳細

本文よりーーーーー

「あたいの先生よ。どきんしゃい」
 M子は大声をあげて私と手をつないでいた男の子をはねのけた。男の子はおどおどしながら手を離した。
 M子はしっかり私の手を握った。
「あらM子ちゃん。よかたいね。ほらこっちの手ばつなごうで」
 そう言って片方の手を出して、その男の子の手を取った。もうM子は何も言わなかった。
 こうして三人はその会場の中を歩き回った。
 ここは市内の障害者福祉施設で、いわゆる障害児学校や学級を卒業して、家にとじこもるよりも外に出たいという意志を持った人のためにつくった農場である。私はM子がここに通っていることは知っていたが、足を運ぶことはなかった。
 退職して数年間自由に過ごしてきた私に、地域のいろいろな役がまわってきた。まだ六十代。今までと違った別世界ではあったが、何とか挑戦していた。その時、この施設から夏祭りへ参加の依頼が来た。私は即座に出席の返事をした。
 そして当日、交通の便の良くないところなので夫に車で送ってもらった。会場に着いた途端一人の男の子が私と目が合ったのか、にっこりした。私もほほ笑み返したら、彼は手を出した。そこで二人は手をつないだ。
 数歩歩いた時に、M子が私に気づいたのだろう。それが前述の言葉である。

著者プロフィールーーーーー
草場 美佐子(くさば みさこ)

昭和8年生まれ。佐賀県出身。
昭和28年 佐賀大学教育学部を修了し、63年まで小学校教師として勤務する。
昭和32年 通信教育にて小学校教諭1級資格取得。
昭和34年 通信教育にて図書館司書教諭資格取得。
昭和36年 障害児教育免許取得。
平成6年より、県、市、町などの地域の用務に就く。

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