説得力のある記述によって明るみに出た歴史紀行。
梨の花II - 評論と随筆
新川 寛/著
発売日:2017年4月2日
500円(税込)
装幀
カバー/増田恵一
デザイン/22世紀アート
発行形態:電子書籍
ジャンル:文学
“史実”という概念がある。むろん史実とは歴史的な事実のことを指しており、歴史学においてはこの史実を構成することが最重要課題となる。したがって歴史はともすると無味乾燥になりがちである。しかし、これが旅行記や航海記となると、歴史へのイメージはかなり違ってくる。ましてやそのテーマが遺跡や遺物となると、博物学的なイメージの集積となるから、これを追求することそれ自体が興趣の湧く事柄となる。
著者はポルトガル、インド、モロッコに亘って繰り広げられる様々な歴史的要素を導入しつつも、その土地に存在する遺跡・遺物に終始目を向け、これを〈イメージ〉の産物として的確に描写してゆく。まさにそれは「歴史の痕跡」や「歴史の爪跡」としての遺跡・遺物なのであって、歴史的文書による史実とは趣を異にしている捉え方である。著者は言う。「遺跡や遺物を見るのに言葉はいらない。余分な形容詞もいらない。ただ静かに、黙って対面するに限る。心の中で縦横無尽に語りかけ、話の輪を自由に拡げ、思う存分語りあうことである」(「はじめに」より)と。つまりそれは、歴史の中に埋没しがちな遺跡・遺物を〈イメージ〉として捉え、これを自由自在に語ることの楽しさを味わうということであろう。また、遺品を通して人間に至るその道程をこそ、人生で味わうべき極上の旅として認識することこそが、〈文化〉を生み出す重要な要素なのだと著者は言いたいのだろう。
本書は単なる旅行記ではない。それは歴史的世界に忽然と現れる痕跡としての遺跡・遺物・遺品を探索する〈文化〉と〈イメージ〉の歴史学なのであり、これこそが本来の意味での歴史なのだという、説得力のある記述によって明るみに出た歴史紀行なのである。
それは歴史の“夢”であり、また“生命”であることは間違いなく、本書によってそのことがよく理解できる、まさに歴史好き必読の一書である。
著書プロフィール
新川 寛(にいかわ ゆたか)/ 洋洋(ようよう)
昭和37年 小樽川柳社に入る
昭和38年 小樽川柳社同人、編集長となる
昭和46年 小樽川柳社退会、現代川柳「群」編集長となる
昭和50年 職業上の都合により川柳を辞める
平成07年 評論活動を再開、現在に至る
平成11年 『梨の花―評論と随筆―』を出版
平成14年 『梨の花Ⅱ―評論と随筆―』を出版
平成28年 『梨の花―評論と随筆―』電子書籍版を出版
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