歌抄 素秋

(著) 砂田暁子

Amazon

作品詳細

雲に何処とあてあるならずふーはりと晩秋の空に浮きて輝く

秋から冬へ移り変わる自然を穏やかに見つめ、こまやかに描き出す。古希を迎えた作者の死生観がそっと滲む。清潔な孤独感ただよう短歌一三二首を収録。
夕暮れ時、静かに読みたい歌集。

(収録作品より)
側溝にうつすらかかる網しづか影となれざる蜘蛛の身透けて
秋の蟬気温下れるゆふぐれにふと鳴き出だし短く止みぬ
肺ふかく檸檬荏胡麻の凜しき香直線に入れ古稀が近づく
みづからの影やはらかく土の上に乗せ晩秋の老木のさくら
癌を病む午後の友の声ほそほそと受話器にもれて落葉しきり
羽破れ転がりながら蜂の子のゆかむと目指す落葉の翳
完璧を思ふことあり飯桐の真つ赤に染まる実ことごとく円
鳩の輪へつねに遅るる一羽ゐて仰げるわが首いつしか痛し
左足壊死したるとふ大鷹に帰る日はるかしらびその森
幼児の遊びのごとし石並ぶビル建つ前の空地あかるく
枯小田へ群るる雀の飛ぶ時にひとつひとつが光を放つ
冷や冷やとまばたく光にオリオンの声ふりそそぐ底なしの夜

【著者プロフィール】
砂田 暁子(すなだ・あきこ)

新刊情報