沃野の風: 歌集

(著) 本田まもる

Amazon

作品詳細

幼き日抱かれしわれが抱いている骨壺に入りて小さき父を

「歌に執し、歌を作り続けて来て、本当に良かった、としみじみと感じ入っている昨今である。『生きた証』ができた、と共に多くの友人を短歌によって得た。これからも、歌による“自分史”を更に書き続けて行きたい」(あとがき)

「詩を作るより田を作れ」と言われてきた農村社会にあって、「田を作りながら詩を作れ」をモットーに歌を作り続けてきた作者。農村に生まれ、農協マンとして、よき家庭人として生きてきた等身大の人生を詠んだ第一歌集。昭和四五年~平成九年の歌を収める。

(収録作品より)
夏草におおわれて隠る立札よわが村内に「売地」の多し
牛飼いに牛の臭いが豚飼いに豚の臭いが村の集会
代掻きを終わりてみればわが田にはわが家逆さに写りて揺るる
五月雨どしゃぶりとなり手金入りわが田一枚売ると決まりぬ
写真一枚確かに撮りし筈なのに現像になし初夏の夕ぐれ
化粧して晴れ着をつけて母行けり百姓の手は隠しきれずに
子の描く父親われの似顔絵は耳忘れてもひげを忘れず
それぞれの想いを背負い阿波路行く秋のへんろの鈴鳴りやまず
青きまま柿の実落ちる晩夏なり今日死す人は十九と聞けり
校庭の一隅に咲く桜あり同じ所で春を告げおり

【著者プロフィール】
本田まもる
本名、本田 守。
○昭和十四年八月、徳島市国府町に農家の長男として生まれる。昭和三十三年三月、徳島県立徳島農業高校卒業後、直ちに家業農業に従事。六年経過後の昭和三十九年四月、二人の弟の学資仕送りのため徳島県公立学校事務職員となり徳島市千松小学校に勤務。傍ら、自らも通信教育で日本大学法学部に学ぶ。卒業と同時に帰農、再び農業に従事。昭和四十六年一月、郷土・南井上農業協同組合に奉職し現在に至る。
○昭和四十三年〝大学卒業記念〟に短歌を始め昭和四十五年十一月、短歌結社「徳島短歌」入会。平成六年四月編集委員、平成七年一月第三十五回「徳島短歌賞」受賞。
○徳島県歌人クラブ委員、徳島ペンクラブ会員。

新刊情報