
川路ばた:幼き頃の残影
(著) 鶴良夫
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わたしのばあさんは、九つ年上の長男の兄貴がお気に入りで、そのあと次々に生まれた五人の兄弟には年の順に興味を失くしていったようです。わたしは下から二番目ですから、もうばあさんはわたしのいたずらにこりたのか、見向きもしなかったのです。ところが、わたしが読む『ねずみの嫁入り』だけは違っていました。わたしが読みだすと決まってばあさんは、わたしの机ににじり寄ってくるのです。読み終わるとばあさんは、「もういっぺん初めから読んでくれんね」と、アンコールのご所望です。わたしは「またや……」といいながらも悪い気持ちはしなかったのでしょう。また大きな声を出して読みだすのです。ばあさんはいちいちうなずきながら聞いてくれました。よほどばあさんのお気に召したとみえ、わたしが読みだすと、決まってわたしのそばにきて何度も何度も『ねずみの嫁入り』聞いていました。字が書けなかったばあさんにとって、こんなお話の本すら読んだことがなく、もちろん読んでもらったこともなかったでしょう。(本文より)
【著者プロフィール】
鶴 良夫(つる・よしお)
昭和7年、佐賀市に生まれる。
昭和30年、佐賀大学卒業。
佐賀市において県立盲学校、昭栄、成章中学校に勤務。
その後私立東洋音楽大学付属高校を経て、音楽之友社教科書編集室臨時嘱託となる。
後に世田谷、新宿区で小学校、中学校の音楽教師を専任。
昭和60年3月退職。
著書に
『ガンバレ! 理枝先生』(ぎょうせい社)
『佐賀ん町を馬鉄が走る』(リーベル出版。これは1988年2月13日から6月14日まで『佐賀新聞』に連載)
『筑後川渡船転覆』(リーベル出版)
などがある。
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