クリスマス・イヴの仏教徒

(著) 伊澤東一

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作品詳細

多くの面で西洋文化の浅からぬ影響下にあった日本人の多くが、晩年になると日本回帰するという精神の軌道傾向は、しかし、とうの昔に潰え、今は「異文化」という言葉さえ見かけなくなりました。そういったものはもはや乗り越えられたのではという新たな時代の実態を、先輩の葬儀に参列したキリスト教会で目の当たりにしたものの、自分自身の内にあるイギリス文学と仏教という土着的な信仰については、どちらも捨てきれず、噛み合わせの悪い同居を、あれこれ思案しながらも、どうせ定年退職までの話なのだからと、放置してきました。
 そんな折、本務校の拓殖大学のご高配で、一年間、イギリスのケンブリッジ大学ヒューズ・ホールにヴィジティング・スカラーとして留学する恩恵に与りました。教育・研究面での業績が期待される若い研究者向けの留学制度ではありましたが、私が出発したのは還暦を迎えた歳でした。家族からも職場からも見放されての、単身渡英の旅でした。
 この拙文は、老生にとっては初めてのイギリスでの、日常生活もままならない生活の中で、自分の裡の「異文化」の位相がどこかストンと変化したような、自分には貴重であっても、ハタに大見得を切る類のものではない体験の記録です。

【著者プロフィール】
伊澤 東一(いざわ・とういち)

一九四二年生まれ。長野県出身。明治大学大学院文学研究科修士課程修了。
イギリス文学。拓殖大学名誉教授。
同様の異文化論的エッセーは「洋学派林達夫の宗教」(『拓殖大学論集第』一六五号)、「非転向の西洋知」(同一七一号)、「どうして『八雲』としたんでしょうね」(同二二八号)、「リンマス村のシェリー」(明治大学文学部紀要『文芸研究』第九九号)。シェイクスピア論としては「飛び入り」、『英米文学に描かれた時代と社会』(編著)(二〇一七年)。「シアター座のこと」、『英米文学にみる仮想と現実』(二〇一四年)。編共著としては他に『田園のイングランド』(二〇一八年)、『イギリスの四季』(二〇一二年)。

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