刑法の社会学:生きたモデルを追って

(著) 宮野彬

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作品詳細

長い間、刑法とつき合ってきたが、それは、理論の構成や体系の確立や判例の研究などの、いわゆる純粋の学問といわれる領域に関するものであった。刑事上の責任には、死刑や自由刑や財産刑などの厳しい制裁が予定されている。そのために、確かに、刑法の適用にあたっては厳密さが要求されざるをえない。このようなことから学問研究の重要性がもたらされる。その一方において、刑法の研究は、右のようなたぐいの学問のためだけにあるのか、という疑問が、常につきまとっていた。社会統制の最も基本的な手段として、刑法は、われわれの社会生活の中に深く根をおろしている。生きているのである。裁判所や検察庁や警察などの実務の世界では、実際に、毎日のように使われている。このような、直接、刑法と縁のあるところではない一般国民の日常生活においても、刑法に由来する仕来りは立派に存在する。そうであるとするならば、専門家によるこれまでの典型的な学問的仕事のほかに、現実の社会とのかかわり合いの中での刑法の姿を知る仕事があるはずである。しかし、従来、このありのままの刑法の姿を追究するための仕事は行われてこなかった。もっとも、この部分は、社会の情勢や政治上の体制や国民性や思想などのさまざまな違いが端的にあらわれる。したがって、世界各国に共通する刑法の姿の追究となると、とりわけ難しいといえよう。また、刑法は、社会の秩序の維持のための基本法であるから、性質上、変化に乏しい。そのため、経済関係の分野におけるような変動のはげしい魅力的な内容をもった仕事を期待することはできない。さまざまな制約がありながらも、それでも、少なくとも、わが国の刑法に関して、その社会学的な動向を明らかにしてみたいと考えたわけである。歴史的にみるとき、社会統制の手段としての刑法は、古くから存在する。それが、現代に至るまで考え方やその他の点において、連続しているのか、あるいは連続していないのかは、一つの興味ある問題といえる。(本文より)

【著者プロフィール】
宮野 彬(みやの・あきら)
1933年 東京に生まれる
1957年 中央大学法学部卒業
1963年 東京大学大学院博士課程修了
    鹿児島大学法文学部講師・助教授を経て,
現 在 明治学院大学法学部教授
主 著 『安楽死』(日経新書)日本経済新聞社,1976年
    『刑事訴訟法100問』(共著)蒼文社,1978年
    『刑法入門』(共著)(有斐閣新書)有斐閣,1979年
    『安楽死から尊厳死へ』弘文堂,1984年
    『刑法各論』(共著)青林書院,1984年
    『犯罪の現代史』三嶺書房,1986年,増補版,1994年
    『刑法の社会学』三嶺書房,1989年
    『刑事和解と刑事仲裁』信山社,1990年
    『裁判のテレビ中継を』近代文芸社,1993年

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