医師が語る文豪・太宰治の(注意欠陥・多動性障害)ADHD説

(著) 富永國比古

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作品詳細

「太宰治は、明治四二(一九〇九)年六月一九日青森県北津軽郡金木村に、津島源右衛門、夕子(たね)の六男・津島修治として生まれた。当時、津島家は地元で有数の大地主であり、小作農をたくさん抱え、金融業でも成功をおさめていた。当主の源右衛門は、高額納税者として貴族院議員をつとめた地元の名士であった。
これまで発表された多くの文芸評論によれば、虚飾にまみれた大富豪の子として生まれた太宰が、『家』に対して複雑なコンプレックスを抱いたことが、後の作品に大きな影響を与えたと解説している。
しかし、太宰の作品や伝記を読むと、問題はそう単純ではなさそうである。
太宰治について、一度でも、その人となりと文学に触れたことのある人は、彼の深いところに存在する光と闇に魅せられ、まるでブラックホールなかに吸いこまれるような眩暈を感じるのではなかろうか。
あるいはまた、三島由紀夫のように、自分の内面に、あまりにも太宰的なるものを発見してしまった人は、かえって太宰に対する嫌悪感を露わにするかもしれない。いわゆる『近親憎悪』である。
太宰のように、さまざまな『人間性の神秘』をまとった人物を理解することは至難の業である。この論考も、そのような限界を意識したうえで企てられたものである。」(本書「はじめに」より)

【著者プロフィール】
富永 國比古(とみなが・くにひこ)
一九四九年、福島県生まれ。岩手医科大学医学部卒業、米国ロマリンダ大学大学院博士課程修了。産婦人科専門医。医学博士・公衆衛生学博士(米)。ロマリンダクリニック(婦人科、心療内科)院長。二〇一〇年四月から星野仁彦医師とともに「成人女性を対象とした発達障害外来」を開設。全国から予約が集まる。医師として活躍する一方、太宰治の直弟子・故菊田義孝氏より文学の手ほどきを受け、太宰研究を続けてきた。本書では、太宰治の作品と生涯を、ADHD、アスペルガー症候群の視点からとらえ直した。

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