戦争の顛末

(著) 筑紫昭和

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作品詳細

アメリカは今や血の粛清を行ったソ連のスターリン、また、民族の粛正を行ったドイツのヒットラーと並ぶほどの世紀の殺戮者として、血に飢えた狼のように、今世紀に蘇った。そこにはもはや予てよりの敬虔なキリスト教国としての側面はなく、欲望と報復の実践のみが存在する死の世界だけがそこに在る。人類は前世紀に於いて悲惨な状態で人類同胞を大量に失ったにも拘らず、何らの学習もなさぬまま、再び同じような殺戮の過ちを繰り返そうとしている。そして今世紀に於ける主役はアメリカである。そのアメリカは、目的達成のためには、如何なる方法であろうと、たとえそのことが人道や宗教に反するものであろうと、決して厭わない。敗戦後の日本はこんな相手と軍事同盟を結んでいる。
 あなたは六十五年も続いている米国との軍事同盟を善しとしますか、それとも悪しきこととしますか。
 敗戦後、半世紀以上を経過した今、この辺で反省してみる必要があるのではと思いませんか。前世紀にアメリカが行った数々の悪業の第一は日本への原爆の投下である。沖縄戦に命運を賭けた日本軍の最後の挑戦も、海空による補給路を完全に断たれ、忽ち陥落、あとは本土のみとなっていたが、その本土に残っていたのは老人、婦女子、幼子のみ。とても戦える状態ではないにも拘らず、米軍は非情にも彼らの創った原爆を広島と長崎に投下し、実験を行ったのである。モルモットのように扱われた日本人に対し、世界初のウラニウム爆弾と、プルトニウム爆弾の二種類の強力な爆弾を、より多くの人々を殺す目的で、食事の時間帯をわざわざ狙って、という念の入れようである。この投下によって殺傷された老幼婦女子は五十万人にも及んだのである。
 悪業の第二はベトナム戦争への介入である。日本が完全降伏後、我が領土を手中に収めたアメリカは、世界戦略上、最も価値の高い沖縄を軍事基地化することによって、世界戦略上の新たな構築と実践に入った。その第一歩がベトナムであった。農業国であるベトナムが意外と強硬な抵抗を示すと見るや、非戦闘員の貧しい農民の集落を焼き払い、農民をして路頭に迷わせ、遂には森林に隠れて抵抗するベトコンを追い詰め、追い出すため、大量の枯葉剤の散布という、自然環境をも無視した暴挙を行った。その結果、農民からは、悲惨な姿をした異常児出産という悲劇まで発生している。目的のためには手段をも選ばぬ戦法は、ベトナムの民衆の勝利に対する、ひとかたならぬ執念の前に、甲斐無くも敗れ去ったのである。
 悪業の第三はイラクへの派兵とフセイン大統領の排除で、この作戦も沖縄あってこそ実行可能な作戦である。米軍諜報機関の誤った情報に基づき行動を起こしたものであったが、その内容は宗教戦争の様相を呈し、最も困難なイスラム教とキリスト教との争いは底知れぬものとなっている。それだけに被害も子供達にまで及び、米軍が使用した対戦車砲の劣化ウランの砲弾は、放射線が子供にまで及び、不治の白血病を発生させ益々問題を大きくしている現状がある。この戦争に関しても日本は憲法の規定上、派兵できないという理由により、自衛隊は専ら後方支援に止まったが、軍事同盟国との理由で、一兆五千億円の出費を強制されている。この戦争はその後も相変わらず続いているが、アメリカ軍はアフガニスタンに戦争を拡大したため、イラクからはさっさと撤退し、傀儡政権によって戦争は継続中である。
 悪業の第四はアフガニスタンでの戦争である。イスラムの流れを汲むオサマ・ビン・ラディンの指揮でのニューヨークのワールド・トレード・センターのテロリストによる破壊、これが起爆となってアフガニスタンへの報復進攻となったが、この作戦も沖縄の基地があったればこその結果である。イラクでの米軍による殺戮は十四万人に及ぶとのことであるが、その中の六割は、子供を含む民間人とのことで罪深い話ではある。アフガニスタンでの被害者は果して何人になることやら。個人が人を殺せば殺人者として重く罰せられるが、戦争では何人殺しても罰せられない。不思議な話ではある。たとえ国家でもあるいは多人数でも、殺人は罰せられるのが当り前になるような社会が訪れない限り、人類に平和は訪れない。中東に於ける戦争の元々の原因は米軍が泥足で踏み込んだのが原因で、宗教戦争の様相を色濃く反映したものとなっているが、加えて沖縄の米軍基地の存在が大きく加担しているといわざるを得ない。その点で日本は軍事同盟国として基地を大きく提供している点、世界各国から大きく非難されて然るべき立場であることは、間違いのない事実である。自民党がこのような同盟の在り方を念頭に置いて同盟を結んだのかは、同盟を結ぶに至った経緯について説明がないので明らかではないが、外交力の欠如が疑われる問題ではある。軍事同盟とは自分で手を下さなくとも、同盟を組んだ相手国が、その同盟の前提の下、行動を起こせば、自分も全くの同罪である。米軍が好き勝手に日本の基地を利用して好き勝手に世界に向かって行動を起こすことを是認するとなれば、もはや日本国の独立国としての体面は消失し、完全なる米国の属領になったということである。いつからそういう属領としての立場になったのか。政権を担当していた自民党に是非質問したい。このことは独立国家にとって見逃せない重大な事態であるからだ。
 最近の米国は自国の兵員の損失を防止するため、完全なロボット戦法に切り換えてきている。その背景には、兵員の損失は、民意を動かし議会を動かし戦争の継続にも問題が発生する、ということがある。戦争そのものの継続さえも不可能となる状況が発生することにもなりかねない。ロボット兵器による作戦では前線に兵を置かなくとも、無人機が空から敵の様子を偵察して詳しい情報を流すだけで、後はロボットが爆弾を操作して、正確に敵地へ撃ち込むという手法である。しかしながら戦争というものは、互いの兵が武器を操作し、対面で殺し合うことが、より正確に軍人だけを排除出来ていた。しかしロボットでは人間の情を挟む余地は無く無差別な単なる人殺しとなり、より悪質な結果が発生する。極論すれば、ニューヨークの別室で女性がジュースを飲みながらロボットのボタンを押しても、遠隔制御でアフガニスタンの特定の目的地へ正確に爆発物を到達させ敵を殺せるということになる。これでは相手方は一方的に殺傷されるだけで女、子供等の非戦闘員の逃げる暇もない。やり方としては豚や牛を一方的に屠殺するやり方と何ら変わらない。このようにして動物(家畜)でも殺すような方法で無差別に人を殺すことに、米国と同盟を組んだあなたは同意できますか。日本人が軍事同盟者として選んでいる相手の米国は、こんな大事なことすらも、平然とやる人達なのです。しかも極く最近の報道では同盟を結んでいるパキスタンへもテロリストの撲滅との名義の下、ロボット攻撃を実行し七百名以上の一般人の犠牲者が出ている実態がある。自民党が選んだ軍事同盟が一方的に日本民族を守るための条約でなかったことは、これらの実績を見たら判然とするでしょう。何度も言いますが、日本民族は建国二千六百有余年間平和を愛する大和民族なのです。皆が穏やかに助け合って生きることを国是とした非同盟非武装永世中立こそが日本民族に与えられた使命で、決してそれは孤立することではない。ただ武器を使って殺し合うような従来の人間同士が行った殺戮の方法ではなく、日本人の本来持っている和の心で世界に接するという原則の確立である。しかしこの和の伝統を無残にも打ち破ったのが明治維新である。

著者プロフィール

筑紫昭和(ちくし てるかず)
昭和2年11月13日生まれ
熊本県出身
早稲田大学第一法学部中退

著書『機転・動転・流転 愛しき我が人生の軌跡』(22ART PUBLISHING)
  『炎の般若あらし』(22ART PUBLISHING)

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