本当に美しいイタリア:隠れた町を巡る写真とスケッチの旅

(著) 長野泉

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作品詳細

【2020年に発刊された『イタリア中部の山岳都市を歩く:山と石畳が織りなす造形美の世界』の改訂版です】
写真とスケッチで巡るイタリアの美しい町

“映えない”からこそ、リアルな旅が“面白い”

イタリアといえばローマ、ミラノ、ヴェネツィア?
もちろんそれも素晴らしいが、観光客にあまり知られていない場所にこそ、とっておきの美しい光景があったりする。
ローマ郊外の山岳部。山肌に張り付くようにつくられた小さな町々。
その造形美に魅了された著者が、写真とスケッチで綴るイタリア紀行。


石畳に中世イタリアの面影を求めて
 本書はイタリア中部の山岳都市を巡る旅行記だ。著者が38年ぶりにイタリアを訪れ、旅の思い出を写真とスケッチで紹介する。

 ローマから急行電車に乗り、モンテプルチャーノから始まる旅は、ローカルバスを乗り継ぎ15ヶ所の町を巡って、ふたたびローマに戻ってくる。

 イタリアの名所はどこも観光客で溢れかえって騒がしいが、山岳部の小さな町はいまもひっそりとしている。中世の面影を残した石畳の広場、路地裏、階段――。古いヨーロッパの町並みが好きな人にとっては、それだけで心が浮き立つ光景だろう。
 団体ツアーの観光プランでは決して行くことのできない、魅力的な小さな町にたくさんのロマンが詰まっている。

 第一部の「写真と文 編」では旅行エッセイとともに町の歴史も紹介している。

 イタリアが統一国家になったのは1860年のことで、じつは160年ほどしか経っていない。西ローマ帝国の滅亡後、ゲルマン部族の東ゴート族、続いてランゴバルド族が侵入して王国を建設するなど、イタリアはその時代の支配者による侵略と混乱を繰り返してきた。そんな中世ヨーロッパの小国同士が絡み合う複雑な歴史を、本書は簡潔にやさしく教えてくれる。

 また著者が建築士ということもあり、教会や塔などの建物や地形の説明もわかりやすい。巻末の年表には歴史的な出来事とともに、その時代の建築様式も記載されており、中世ヨーロッパの建築様式の変遷が一目でわかるようになっている。

 第2部の「スケッチ編」では、B5判のスケッチブックに油性ペンで描いた旅行スケッチ63点の中から選りすぐられた作品が載っている。絵のやわらかいタッチから、町並みの素朴な美しさが伝わってくる。

 旅先で絵を描ける人というのは本当に羨ましい。美しい景色を目の前にして、絵葉書の一枚でもサラサラと描けたらどんなに楽しいだろうと思う人は少なくないはずだ。のんびりとベンチに腰掛けて、スケッチブックに空の移ろいや光の反射を写し取っていく。そんな心豊かな情景が目に浮かんでくる。

“映えない”リアル旅
 本書の良いところは、“旅慣れない旅”だというところ。

 カタコトのイタリア語で道を尋ねたり、迷って同じところをウロウロしたり、スリに航空券を盗まれたのではと不安になったり――。

 一度でも海外旅行した人なら「あるある」と頷いてしまうような、旅ならではの苦労と困惑。その一方で、バス運転手との会話や、地元の学生たちと交わした挨拶など、日本にいれば気にも留めないような些細なやりとりの一つひとつが印象深く、これも旅の醍醐味だと温かい気持ちになる。

「旅は好きだけど、SNSで次々と流れてくる“映え”旅行には食傷気味……」という人に、ぜひ本書をおすすめしたい。ゆったり“リアル”なイタリア町歩きに案内してくれるだろう。

文:北島あや


[著者プロフィール]
長野 泉(ながの・いずみ)
1937年、札幌市生まれ、札幌工業高校建築科卒業
久米建築事務所(現在久米設計)勤務
1964年、法政大学工学部建設工学科建築専攻卒業、大成建設株式会社設計部勤務、同社定年退職、
現在、一級建築士事務所を廃業、執筆活動に専念。

著書
ヨーロッパの広場と空間の旅
父の石器
空間の記億
東京のオープンスペース考

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