橘孝三郎、その思想の系譜――農本主義から超国家主義、そして皇道哲学へ:日本の「もう一つの近代」を探る

(著) 菅谷務

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作品詳細

[商品について]
―人は人と共に活きればこそ活きておられる。また人は人と共に生きんとすれば活きてゆけるのである―
自営農民による非合理的な急進主義思想として、北一輝や大川周明らの思想とともに「日本ファシズム」を代表する思想と位置づけられてきた橘孝三郎の「農本主義」思想。しかし物質を対象とする工業に対して生命を対象とする農業の独自性に着目し、「生命」をもって世界の構成原理とした橘の「農本主義」は、その根底に「共生の原理」がはたらく「近代思想」そのものであり、硬直したファシズム論の脈絡から一旦切り離して現代的な視点から新たに読み直してかなければならない。本書は、そうした視座のもと、『茨城の思想研究』に発表した其々が独立したテーマの四本の論考をまとめた作品である。戦争批判や天皇論とキリスト教神学との関係、「農本主義」とエコロジー思想との比較など、これまでにない切り口から橘の思想を論じる本書は、日本の思想を考察するうえで類書のない視点を持ち、示唆に富む内容となっている。

[目次]

第一章 「超国家主義」への軌跡 ──「国家」と「共同体」──
はじめに
一 橘孝三郎と風見章をつなぐもの
二 「未発掘」とされた「日本皇道国体本義」と「改造建設具体案」
三 風見章の「日記」にみる日中戦争前後
四 戦争正当化への途
五 橘の国家改造案と支那建設案
六 国家の起源をめぐる模索
七 「共同体」と「国家」
八 「国民国家像」の変容
第二章 橘孝三郎の「農本主義」と〈共生〉の思想 ──〈もう一つの近代〉への模索──
はじめに
一 「農業」と「工業」
二 「覇道国家」と「王道国家」
三 宗教的国家観の成立
四 橘の戦争観
五 天皇と大嘗祭
六 「農本主義」と〈共生の原理〉
第三章 「日本ファシズム」と超国家主義思想の位相 ──橘孝三郎と北一輝の「労働観」を中心として──
はじめに
一 北一輝にみる「近代性」
二 二つの「労働観」
三 「農」と「遊戯性」
四 「時代体験」の在り方と歴史意識
五 総力戦下の「ユートピア」と「イデオロギー」
むすびにかえて
第四章 橘孝三郎にみる「現人神」と「イエス・キリスト」
はじめに
一 「普遍神」としての「現人神」の発見
二 「スメミチ」(「皇道」)の両義性
三 「戦争」と「革新」
四 橘にみる戦争批判の視点
五 宗教思想としての農本主義
あとがき
初出一覧
著者紹介

[出版社からのコメント]
戦前の日本の思想をファシズムという括りで縛り、悪い意味での歴史的・政治的な目線で捉えることは、歴史や過去の事象から学ぶというおそらく人間にのみ許された行為をするうえで、決して良い傾向とは言えないのではないかと思います。歯ごたえのある論稿を収めた本書は、その上に論を重ねる礎石として非常に魅力的な内容となっています。ぜひ多くの方に、本書を手に取っていただければ嬉しく思います。

【著者紹介】
菅谷 務(すがや・つとむ)

1950年、茨城県に生まれる。
明治大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院政治経済学研究科博士課程単位修得退学。
日本政治思想史専攻。
前茨城大学非常勤講師。現在、茨城大学五浦美術文化研究所客員所員。
主要著書 『近代茨城の自画像──鹿島地域からのまなざし』(2004、文眞堂)
     『近代日本における転換期の思想──地域と物語論からの視点──』(2007、岩田書院)

近年の主要論文
・大川周明の思想形成とその原点──「異人」の視点から──
(歴史文化研究会(茨城))『歴史文化研究(茨城)』第二号 二〇一五年)
・大川周明の世界観と西欧近代の「異端」思想(前編)──C・G・ユングの問題提起を通して──
(同 第三号 二〇一六年)
・同(後編)「神秘主義」思想の可能性──R・シュタイナー、F・ヴァレラからの視線を通して──
(同 第四号 二〇二一年)
・〈帝国〉という視座から見た大川周明の世界構想──清朝の遺臣辜鴻銘の同時代史観との関連において──
(茨城大学五浦美術文化研究所紀要『五浦論叢』第二五号 二〇一八年 電子版)
・大川周明の世界構想における「大東亜戦争」の意味について(前編)──日本の「曖昧性」と新たな世界像の模索──
(同 第二六号 二〇一九年 電子版)
・同(後編)──「不条理」(神の摂理)としての「世界戦争」、その体験と予見──
(同 二七号 二〇二〇年 電子版)

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