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民俗誌・女の一生：近代の語りを紡ぐ

(著) 野本寛一

作品詳細

［商品について］
―「女性」について考えることは、「社会」について考えることに他ならない―
かつてこの国を生きる人びとの仕事や暮らしの中にあった「語り」、その中心にいたのは女性たちであった。戦前期の女性たちは、そうした語りによる「体験」と「伝承」を受け継ぎながら、家庭やムラの中で厳しい仕事を担っていた。本書は、日本各地をめぐり残された膨大な語りを採取してきた著者が、そこにある母性や女性としての誇りある人生を、傾聴し未来へと継承すべき「女たちのことづて」としてテーマごとにまとめた「女たちの民俗誌」である。皮相的な男女論に警鐘を鳴らし、豊かな民俗学の成果を未来へと託す一書。

［目次］
序章　海女舟と田植の情景――民俗世界とジェンダー論
海女(あま)の息綱
情景の底にあるもの
早乙女と田植囃し
嫁の受胎力
女たちのことづて
Ｉ章　女になる道
１　ママゴトと盆竈(ぼんがま)
マネビとゴッコ
儀礼としてのママゴト
２　十三歳――成女への階(きざはし)
十三参りの知恵
契約姉妹
オバフンドシ
３　月経と月小屋
初潮の呪力
女の褌(ふんどし)
月小屋の安息
４　お針
衣を担う
５　腰巻の話
シンボルとしての腰巻
Ⅱ章　嫁ぐ
１　婚礼前夜と門出の日
顔を剃る
嫁と死者の門出
２　長持唄のドラマ
リョウゲン節
３　床入りと第三の女
「送り婆様」との出会い
オバの力
Ⅲ章　嫁の日々
１　産む――臼(うす)と出産
『後狩詞記』の村へ
臼の合理性
男のツワリ
魔除けの弓射
２　産小屋
産屋入りの体験
産土(うぶすな)と祭りの砂
始原の産屋
３　出産前後
妊婦・産婦の食べ物
授乳に関する伝承
４　間引きと産女(うぶめ)
子はらい
産女
５　嫁と姑
女同士の葛藤
伝承の授受
６　里帰り
弾む足どり
Ⅳ章　女の仕事と休日
１　「一人前」と嫁田の話
ノルマか保護か
嫁田の話
２　食――多彩な食法
晴れと褻(け)の餅
赤飯とシラムシ
母性の発露
３　衣――自己完結と達成感
女の手仕事
誇り高い仕事
４　主婦権の譲渡
米・味噌・漬物
ドブロクの甕破(かめやぶ)り
５　女人講と浜おり
月待ちと女人講
会食と宴
浜おり
海水による禊ぎ
Ⅴ章　嫗(おうな)への坂
１　血の道を越えて
猿の頭と人骨
男たちの助力
２　久高島フバワクの現代的意義
クバの霊力
３　姥の象徴性――究極の母性
婆の群像
おんば様
山姥の母性
栄光の乳房
Ⅵ章　女の力と民俗信仰
１　稲作系芸能と女性
田遊びと孕み女
稲作予祝の子産み
２　山の母源性と女性
山の神の出産
資源管理と山の神
終章　開かれる産屋――ラマーズ法の周辺
「な見たまひそ」の伝統
母性の復権
《参考文献》
著者略歴

［担当からのコメント］
古くて時代に合わない因習と断じて、地域や家の中で受け継がれてきたものを切り捨ててしまう時代を私たちは生きていますが、本当にそれが正しいことなのか疑問に思う方も少なくないのではないでしょうか。ぜひ本書に収められた様々な伝承を読みながら、本当に受け継いでいくべきものについて、じっくりと考えていただければ嬉しく思います。

［著者略歴］
野本寛一（のもと　かんいち）

１９３７年　静岡県に生まれる
１９５９年　國學院大學文学部卒業
１９８８年　文学博士（筑波大学）
２０１５年　文化功労者
２０１７年　瑞宝重光章

専攻──日本民俗学
現在──近畿大学名誉教授

著書──
『焼畑民俗文化論』『稲作民俗文化論』『四万十川民俗誌──人と自然と』（以上、雄山閣）、『生態民俗学序説』『海岸環境民俗論』『軒端の民俗学』『庶民列伝──民俗の心をもとめて』（以上、白水社）、『熊野山海民俗考』（人文書院）、『近代文学とフォークロア』（白地社）、『山地母源論１・日向山峡のムラから』『山地母源論２・マスの溯上を追って』『「個人誌」と民俗学』『牛馬民俗誌』『民俗誌・海山の間』（以上、「野本寛一著作集Ⅰ〜Ⅴ」、岩田書院）、『栃と餅—──食の民俗構造を探る』『地霊の復権──自然と結ぶ民俗をさぐる』（以上、岩波書店）、『大井川──その風土と文化』『自然と共に生きる作法—──水窪からの発信』（以上、静岡新聞社）、『生きもの民俗誌』『採集民俗論』（以上、昭和堂）、『自然災害と民俗』（森話社）、『季節の民俗誌』（玉川大学出版部）、『近代の記憶──民俗の変容と消滅』『井上靖の原郷──伏流する民俗世界』『麦の記憶、民俗学のまなざしから』（以上、七月社）、『自然暦と環境口誦の世界』（大河書房）、同書電子書籍版・22世紀アート、『民俗誌・女の一生──母性の力』(文春新書)、『神と自然の景観論──信仰環境を読む』『生態と民俗──人と動植物の相渉譜』『言霊の民俗誌』（以上、講談社学術文庫）、『食の民俗事典』（編著、柊風舎）、『日本の心を伝える年中行事事典』（編著、岩崎書店）ほか