芸術小説が語る追憶と夢:作家 藤井善三郎の感性と魅力

(著) 山崎修

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作品詳細

藤井善三郎という本編の主人公は、いろいろとユニークな人物である。近江商人の成功者たちを先祖に持ち、祖父の構築した中国文物の価値あるコレクションを美術館ごと若くして継承した。一般家庭とはかなり異なる家に育ったため、幼い頃からさまざまな「本物」を見て育っている。いろいろな「本物の人間」にも出逢い、薫陶を受けたことだろう。もちろん、普通の暮らしをしている人には想像もつかない苦難や理不尽にも数多く出会ったことだろう。

 こういう人物の素顔、正体、さまざまな思いを文字で伝える場合、最初にぶつかる困難がある。それは、読者が第一印象として「この人は自分とは違う世界の人だ」と思い込んでしまうことだ。それはさまざまなバイアスとなって文章の理解を妨げる。ライターとしては、まずそこをどうにかしなければならない。だから「隣の芝生」という言葉を冒頭に掲げさせてもらった。
 私は今回、正攻法でその最初の障害を突破してしまおうともくろんでいる。主人公の外形的な姿をあっさりと見ていただき、「でも、この人はあなたと同じ赤い血の通った人間ですよ。見てきたもの、体験してきたことがちょっと違うだけなんです。その違いからくるメッセージに耳を傾け、あなたの人生の参考にしてみてはどうですか」ということを伝えていきたい。

【目次】
はじめに
第一部 毛筆に触れる日々
藤井家の系譜
四歳で書道塾へ
書家との対話を目指す
毛筆が思考の道具となる
書に対する考えが変わる
生き生きした書を作成するためには
第二部 医学から美術の道へ
医学から美術の道へ
感性を高めることの重要性
湧き上がる情念と発想を筆で伝える
『祖先文化へのまなざし』が誘う世界
二冊の違いを「目次」に見る
「青銅器」の表記における二冊の違い
二冊に共通の「心で観る」という姿勢
心を無にしたときに現れるもの
人間らしさの維持と復活
頭で観るか心で観るか
製作者との対話
第三部 歌舞伎・オペラから食文化まで
「美術小説」の誕生
専門の違う二人と学芸員との会話
小説の中で語られる有鄰館の来歴
長楽館でフレンチを堪能
美術小説から芸術小説へ
中国史とマネジメント
中国美術と現代科学
再び京都へ
三部作の完結編で結ばれる二人
次のシリーズは自伝小説に近づく
偶然の出会いで知り合う二人
ミュージカル「レ・ミゼラブル」
滋賀への日帰り旅行
第四部 小説家としてのわが人生
作者として語る
「美で人生を謳歌」
医学への夢を託した作品
中国美術に回帰した「改元記念作」
パリに舞台を拡げた十作目
藤井善三郎の世界はまだまだ拡がる
あとがき
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