山人・海人伝承と河内王朝 : 枯野琴と国栖奏に見る祭祀・服属と記紀の論理

(著) 畠山篤

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作品詳細

[商品について]
―伝承の中の古層と新層を探る―
河内の国を本拠とし、応神天皇を始祖とする河内王朝。この河内王朝の政の一つである「山海の政」は「国栖伝承」と「枯野伝承」として今に伝えられているが、これらの伝承は通説では理解しがたい多くの問題を孕んでいる。本書は、この山人と海人の伝承について、「応神記」や「仁徳記」の記述をもとに、両部族の生業の繁栄を図る祭祀でうたわれた呪祷歌が王権の論理のもとに変容して宮廷儀礼化され、やがて記紀の中で物語化・歴史化される模様を追いながら、この伝承の意味を探り、河内王朝の実像に迫ろうと試みた作品である。

[目次]
序章 山人と海人の伝承の生成
1 河内王朝の統治体制
2 国栖伝承
3 枯野伝承
第一章 枯野伝承の生成―渡海安全・服属・治世―
一 はじめに
二 枯野伝承の構造
1 記紀の本文の比較
2 記紀のプロットの比較
3 枯野伝承の構造
三 伊豆の国軽野産の官船
l 海運を重視した河内王朝
2 山海の政
3 伊豆の国軽野産の官船
4 枯野船の規模
四 古態を残す仁徳記
五 巨木伝承の展開
1 首都圏を示す巨木の影
2 巨木伝承の原始形
3 王権に奉仕する巨木
4 王権の巨木
5 速鳥の巨木
6 歪な巨木伝承
7 枯野の巨木
六 〈枯野琴の歌〉の呪祷性
1 呪祷歌の構造
2 御酒の生産叙事と呪力の発動
3〈三重の采女の勧酒歌〉
4〈舒明天皇の国見歌〉
5 枯野琴=渡海安全の呪具
6 琴の呪力の発動
7 時化の静め
8 静歌の呪的効用
9 大阪湾に響く琴の音
10 海を統御する海人
七 「枯野」の名義の展開
1 地名由来から称辞由来へ
2 称辞由来から新たな地名由来へ
八 淡路の海人の服属伝承
1 淡路島の清水の運搬
2 海上運輸と御食つ国の合体
3 王権のための巨木の変身
4 淡路の海人の服属芸能
九 琴による天皇の統治
1 首都圏に響く琴の音
2 袁祁の王と雄略天皇の名乗り
3 弾琴と色好み
4 文体の二重性
一〇 首都圏の治世謳歌
1 仁徳朝の動乱
2 初春の瑞祥
3 静歌による治世謳歌
4 国見との補完
5 陸海の国見歌と弾琴
一一 全国統治と国威発揚
1 巨木信仰からの脱却
2 塩の転生
3 全国と東アジアに響く琴の音
4 造船技術者集団の伝承から応神紀へ
一二 結 び
第二章 国栖伝承の生成―森の新生・服属・皇位継承―
一 はじめに
二 国栖伝承の構造
1 記紀の本文の比較
2 国栖伝承の構造
三 国栖奏の由来
1 国栖奏の由来
2 国栖奏の新層と古層
四 応神朝の山人
1 山人の服属
2 祭式による歓待
五 国栖奏の原形
1 春を招く神剣
2 神剣の呪力の発動
3 神剣の力
4 山人と海人の交流
5 樹下の神宴
六 国栖の服属と山人の統治
1 国栖の服属
2 国栖族の庇護・統治
3 全山人の庇護・統治
4 「品陀の日の御子」
5 〈月立ちの答歌〉と〈雁の卵の答歌〉
6 〈天語歌〉
7 河内王朝の天皇の新春の称号
8 古層の国栖奏
9 新層の国栖奏
七 皇位継承
1 応神記の構成と構想
2 三皇子の分担
3 丸邇の矢河枝比売との婚
4 日向の髪長比売との婚
5 吉野の国主(国栖)伝承
6 百済の朝貢と酒の歌
7 大山守の命の反乱
8 仁徳前記
八 国栖の服属
1 応神紀の構成
2 絶対的な天皇像
3 新層の国栖奏の由来
九 結 び
終章 祭祀・服属と統治・記紀の論理
テキスト
引用文献・参照文献
歌謡・和歌索引
著者略歴

[出版社からのコメント]
神話や伝承が、長い時間の中で変容しながらも現代の私たちに様々な歴史を伝えるのだとすれば、その研究は考古学のような面白さがあるように思います。積もり重なった時間の層を掘り進みながら歴史を探究する楽しさを、本書を通じて多くの方に味わっていただければ嬉しく思います。

【著者略歴】
畠山 篤(はたけやま あつし)

1946年、秋田県生まれ。国学院大学大学院文学研究科(日本文学専攻)博士課程満期退学。
沖縄国際大学短期大学部国文科教授を経て、現在は弘前学院大学大学院文学研究科(日本文学)教授、同文学部教授。
博士(民俗学)(国学院大学)。

著書
『沖縄の祭祀伝承の研究―儀礼・神歌・語り―』(瑞木書房、2006年、日本学術振興会科学研究費補助金〈研究成果公開促進費〉交付)。
『能舞〈鐘巻〉の復原』(弘前学院出版会、2015年)。
『岩木山の神と鬼』(北方新社、2016)。
『万葉の紫と榛の発想―恋衣の系譜―』(アーツアンドクラフツ、2020年)。

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