心理学 : こころを科学する

(著) 笹野完二

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作品詳細

自分や他人の行動を客観的にみることで、洞察力を養う。

「記憶」や「意志決定」は、どのようにしてなされるのか。


私たちは日常生活の中で、さまざまな行動を繰り返している。行動の背景には、「こころの働き方」があり、そのしくみを解明しようというのが心理学だ。本書は心理学の基礎的な知識を身につけるだけでなく、自他の行動の意味を洞察する力を養う一助となる。ここでは、本書の内容から「記憶」と「意志決定」にフォーカスして紹介する。

記憶は、思い出すことができなければ活用できない

 私たちの生活は、記憶に支えられている。

 記憶は「感覚貯蔵庫」「短期貯蔵庫」「長期貯蔵庫」という、3つの貯蔵庫から構成されると考えられている。そして、一般的に記憶という場合は、長期貯蔵庫内の記憶情報を指す。長期貯蔵庫は容量に限りがなく、具体的・抽象的な物事や事象、知識、体験、感情、イメージなどが貯蔵されている。そして、その内容は、常時意識されることはないが必要に応じて注意が向けられ、意識化されるという。

 それでは、どうしたら長期貯蔵庫に情報を入れることができるのだろうか?
私は、憶えるのが苦手なので知りたい。

「記銘時になされた処理が、物理的表層的なレベルから意味記憶内容と関連づけるなど、処理が精緻化されるほど記憶が安定すると解釈されている」(本書から抜粋)

 つまり、情報として頭に取り込むときに、その対象に「どんな意味があるのか」「どんな文脈や状況と関連があるのか」といった情報と合わせるほど、記憶が安定するという。ここで、以前読んだ本の内容を思い出した。そこには、「情報を自分ごとにして知識の中に取り込むには、メモするときに自分が感じた『気づき』を加えるとよい」とあった。

 これらは、頭から情報を引っ張り出すとき(検索)の重要な手がかりとなる。「記憶」と聞くと「憶える」ことをイメージするが、必要なときにその情報が引き出せないと活用できない。「検索」という客観性を持つことで、記憶の捉え方が変わった。


知識の偏りは誤った判断の原因になる

 私たちは意志決定をするときに、いくつかの選択肢を比較検討し、選択することによって生じる結果を予測する。そのとき、何を手がかりに意志決定をしているのだろうか? そのひとつが「利用可能性ヒューリスティック」だ。

 ヒューリスティックとは、緻密な論理で一つひとつ確認しながら判断するのではなく、経験則や先入観に基づく直感で素早く判断することをいう。また、LTSは前述の長期貯蔵庫のことを指す。つまり、ある物事や事象について“パッ”と思いつく事例がたくさんあるほうに、判断されやすいということだ。著者はこう書く。

「われわれの記憶した知識に片寄りがないときは有効な方略になるが、そうでない場合は、誤った判断の原因になる」

 本書は、教養として心理学を学ぼうとする学生や一般の人たちのために編集されたものだ。行動を客観的に捉えるヒントが書かれており、自分が無意識に行っていることに目を向けるきっかけにもなる。

文・コクブサトシ

[著者プロフィール]
笹野 完二(ささの・かんじ)

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