
椰子と少年ー戦争の記憶と共に平和の国を生きる
(著) 栗原茂夫
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――戦争で父と弟を失った。それでも、少年は兵隊になりたかった。
教科書を読むのが楽しかった。兵隊が笑顔で敬礼を返してくれると、胸が躍った。サイパンで育った少年にとって、兵隊はいつか自分もなりたい、憧れの存在だった。
1944年、その島が戦場になった。9歳の少年は、家族と洞窟やジャングルを逃げ回る。水と食料を探しに出た父は戻らず、収容所では幼い弟2人が栄養失調で亡くなった。戦後、日本本土へ渡ったとき、6人いた家族は3人になっていた。
それでも、兵隊への憧れは消えなかった。ところが、ようやく学校に通い始めた少年を待っていたのは、黒い墨で塗りつぶされた教科書だった。大切に読むよう教わった言葉が、今度は消されている。子どもが信じたものは、文字と一緒に消せるのか。
父と歩いた椰子林で飲んだジュースのおいしさが、忘れられない。
戦争の記憶には、砲撃や飢えの苦しさだけでなく、家族と過ごした温かな時間も残っていた。戦争で失われたもの、それは命だけではない。これから一緒に笑い、遊び、生きていくはずだった時間だ。
「戦争で亡くなった人」は、誰かの大好きな父や弟だった。
「戦争は怖い」という言葉だけでは分からない、日常の重みを伝える随筆集。
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