ナチス・ドイツの強制労働と戦後処理 : 国際関係における真相の解明と「記憶・責任・未来」基金

(著) 田村光彰

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作品詳細

[商品について]
―二度と繰り返さないという意識があるか、それがいま問われている。―
2000年7月17日、ナチス時代の強制労働者に補償を行う財団がドイツで正式に発足し、約150万人とも推定される元強制労働の被害者への補償が、戦後56年目にしてようやく始まった。「記憶、責任、未来」と名付けられたこの基金は、補償を求める被害者や遺族の声だけでなく、国内外からの支援と連携、そして歴史研究の進展という長い道のりを経て実現したものだった。本書では、ドイツの歴史認識の変遷と戦後処理・補償の詳細を国際関係の中で描きながら、「記憶、責任、未来」基金に収斂される強制労働の補償問題に焦点を当てて詳論する。

[目次]
第一章――ドイツの歴史認識はどう進んだか
1 歴史認識の大筋
2 記憶の抹殺と沈黙
3 ドラマ『ホロコースト』の衝撃
(1)「テレビ史上、最も重要な日」
(2)『ホロコースト』のもたらした歴史認識
4 ヴァイツゼッカー大統領演説と歴史家論争
5 基金の設立
第二章――強制労働
1――強制労働の実態
1 体験を語る
(1)ボッシュ社
(2)フォード社
(3)IG―ファルベン社
(4)企業の「被害者」論
2 強制労働者の由来
3 出身国別の強制労働者
(1)チェコ
(2)ポーランド
(3)北欧、フランス
(4)ソ連
4 子どもの強制労働
2――強制労働とは何か
1 大規模、組織的な強制労働
(1)農業部門から産業部門へシフト
(2)全ヨーロッパを供給先に
(3)強制収容所に新たに触手
2「業績に連結」させる食糧配給
3「業績に連結」させる賃金
4 人種差別に基づくヒエラルヒー
5 後始末
(1)間引き
(2)警察、職安へ「戻す」という措置
(3)帰還者を待ち受けた偏見
第三章――国際法と裁判
1――国際法、国内法と強制労働
1 無差別大量殺戮の時代
2 国際法
(1)第三帝国が拘束される国際条約〈1〉「ハーグ陸戦規則」
(2)第三帝国が拘束される国際条約〈2〉「捕虜条約」
(3)第三帝国が拘束される国際条約〈3〉「ジュネーヴ赤十字条約」
(4)第三帝国が拘束される国際条約〈4〉「奴隷禁止条約」
(5)第三帝国が拘束される国際条約〈5〉「ILO五号条約」
3 国内法
4 強制労働者使用の目的
(1)ドイツ人労働者の穴埋め
(2)不払い、低賃金労働
(3)労働生産性
(4)社会保障規定から除外
(5)戦後へのスタートダッシュ
(6)高度経済成長
(7)ステータス・シンボル
5 企業の虚偽
6 各社の強制労働
(1)ディール社の場合
(2)アメリカ企業フォード社の場合
7 ナチス犯罪とは何か
(1)戦争開始以前の暴力装置
(2)すさまじい事後法の体系
(3)「人道に対する罪」
2――ニュルンベルク国際軍事裁判とニュルンベルク継続裁判
1 ニュルンベルク国際軍事裁判
(1)「人道に対する罪」と「狭義(通例)の戦争犯罪」
(2)判決
(3)ニュルンベルク国際軍事裁判の意義と問題点
2 ニュルンベルク継続裁判
(1)ニュルンベルク継続裁判と強制労働
(2)IG―ファルベン社の場合(事件番号六)
第四章――「記憶・責任・未来」基金
1――ドイツの戦後補償史
1 第一期:補償問題は州が先行
2 第二期:初期の国際条約と国内向けの単一補償法
(1)加害への沈黙
(2)アデナウアー、一歩踏み出す
(3)ロンドン債務協定
(4)連邦補償法
(5)二国間協定による西側諸国への補償
3 第三期:東側諸国との補償問題に進展
4 第四期:緑の党の努力と忘れられた犠牲者
(1)補償は「誇り」
(2)緑の党
(3)「忘れられた犠牲者」
(4)ノイエンガメ強制収容所
5 独自の裁判と非ナチ化
(1)西ドイツの既存の刑法による裁判
(2)非ナチ化と大赦
6 第五期:「記憶・責任・未来」基金設立
(1)ドイツ・ポーランド和解基金
(2)強制労働補償基金「記憶・責任・未来」に先立つ企業の補償史
(3)真相の解明
(4)基金成立の要因
(5)基金の成立
2――終わりに
1 申請者二一〇万人
2 運動を続ける人々
(1)ミュンヒェン反差別同盟
(2)独自のカンパ、基金の創設
3 くり返さないために
あとがき

[担当からのコメント]
本書はドイツの戦後補償について扱った作品ですが、その内容の多くは私たち日本にも当てはまる問題を含んでいます。その意味では、本書は過去の問題ではなく現在の問題であり、そして私たちの未来の問題でもあるといえるのではないかと思います。本書を通じて、日独の戦後処理について深く考える機会を多くの方に持っていただければ嬉しく思います。

[著者プロフィール]
田村光彰(たむら・みつあき)
1946年生まれ、金沢大学大学院修士課程(独文専攻)終了、現在、北陸大学教員

著書
『統一ドイツの苦悩――外国人襲撃と共生のはざまで』技術と人間、1997年(改訂版)
『ドイツ 二つの過去』技術と人間、1998年
『現代ドイツの社会・文化を知るための48章』(共著)明石書店、2003年

主要訳書
エルケ・シュテーク他『意識はフェミニズム、行動は地域』現代書館、1991年
トーマス・エバーマン、ライナー・トランペルト『ラディカル・エコロジー』(共訳)社会評論社、1994年
ペーター・シュタインバッハ他『ドイツにおけるナチスへの抵抗1933―1945』(共訳)現代書館、1998年
ヤン・C・ヨェルデン編『ヨーロッパの差別論』(共訳)明石書店、1999年
ベルント・シラー『ユダヤ人を救った外交官――ラウル・ワレンバーク』(共訳)明石書店、2001年
ゲールハルト・フィッシャー他『ナチス第三帝国とサッカー』(共訳)現代書館、2006年

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