五つ星 無料レストラン:地方と再生の物語

(著) 坂根修

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作品詳細

ある日、「無料レストラン」という一風変わった看板を掲げた殺風景な店に若い二人連れの男女が訪れた。女性は小柄で赤い長靴を履き、髪を後ろに束ねたポニーテール。丸顔に大きなトンボメガネが印象的だ。
長身な男性はベレー帽を被り、どちらかといえば無口な教養を感じさせる青年だったが顔にはもの悲しさが漂っている。ベレー帽は最近では珍しく、めったにこの帽子を愛用する人にはお目にかからない。衣料品店などでも女性用は探せばないことはないが、男性用を探すとなると難しい。
この対照的な組み合わせは女性が動、男性は静といった立ち位置で女性の機敏さが目立つ。「好んで髪をポニーテールに結う女は気が強い」などと言う脳科学者がバラエティ番組でもっともらしく解説していたが真実は分からない。
「ここ、タダでご飯食べられるの? チョー・ラッキー。辰ちゃん、ここで食べていこう。私たちね、農業しようと土地を探していてここに迷い込んじゃったわけ。お店全然ないじゃん。だから途方に暮れていたわけ。おばさん、何が食べられるの。タダなんだから何でもいいけど」
現代風な、何の礼節もない若者が珍しいわけではない。テレビから流れる映像にはこういう無作法な現代人が度々登場する。それは大抵の場合街角のインタビューなどで体を揺らしながら髪をかき上げ、周囲の者に同調を促しながら宇宙人のように受け答えをする。(本文より)

【著者プロフィール】
坂根 修(さかね おさむ)
1944年東京生まれ。1962年東京都立農芸高校卒業。
東京農業大学在学中に南米ブラジルに渡る。
10年後に帰国。2年ほどのサラリーマン生活のあと、埼玉県寄居町で営農の傍ら「皆農塾」を開く。
1989年皆農塾分室を愛媛県肱川町(現大洲市)に開設。
現在に至る。

■著書
『都市生活者のための ほどほどに食っていける百姓入門』(1985年 十月社)
『痛快、気ばらし世直し百姓の塾』(1987年 清水弘文堂)
『ブラジル物語』(1988年 清水弘文堂)
『脱サラ百姓のための過疎地入門』(1990年 清水弘文堂)
『ベーシック・インカム(国民配当)投票に行ってお金をもらう構想』(2016年 文芸社)
『明日のための疎開論』(2017年 文芸社)
『移民船上のわが友』(2018年 ルネッサンス・アイ)
『五つ星 無料レストラン』(2019年 ルネッサンス・アイ)

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