牛田のタマシギ、生命の記録――あるナチュラリストと住宅地で出会った野鳥たち

(著) 中林光生

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作品詳細

[商品について]
―1979年、牛田のタマシギたちの長い生命の営みは途絶えた―
1970年代初め頃、広島市街の北にある低山に囲まれた牛田には、家々に囲まれながらもいくつかの水田が残っていた。そしてそこには、農家の作業をかいくぐって巣を作り、卵を産み、ヒナを育てるタマシギたちの姿があった。本書は、1972年から牛田の地でタマシギの観察を続けた著者の、約8年にわたるタマシギたちの生命の記録である。害鳥ではないことを農家に説いて回り、プールを作り、ときには名前をつけて見守ったその姿と貴重な生態、そして今は失われてしまった環境を、愛らしいイラストと共に郷愁を込めて綴った牛田タマシギ衰亡記。

[目次]
まえがき
挿絵一覧
第1章 牛田のタマシギたち ─草むらの平穏な生活者─
タマシギのすみか
稲田のタマシギたち
農作業とタマシギ
第2章 夜の暗がりとタマシギたち ─人工のプールを独占する雌がいた─
夕方の集合
喜びのダンス
プールを作った
プールを一羽の雌が独占した
食べ物の偏在が独占を際立たせる
夜中の雌を撮影
リーダーと群れの関係
プールを増やす
タマシギの社会に順位があった
にじり寄る雄が順位を確立した
独占に雌の適応の跡をみた
第3章 タマシギたちの言葉 ─草むらの声・体の動き─
Ⅰ 草むらの声
1)音によるコミュニケーション
2)グワウという基本になる声がある
3)雄と雌はつぶやき合う
4)威嚇となだめ
5)雌は歌う
6)雌はなぜ歌う
Ⅱ 体の動き
1)防御の動作を多用する
2)翼の動きに物言わせる
3)尻の動きで語り合う
4)首の動きに威嚇を込める
5)交尾に伴う儀式がある
第4章 タマシギの男時(おどき)・女時(めどき) ─雄と雌は互いの立場をすり合わせる─
Ⅰ 牛田の雄と雌
1)群れは活動場所をD田に移した
2)雄と雌の役割は入れ代る
3)雌が雄をさりげなく誘導する
4)雌がつがいの形を受け入れ始める
5)巣作りの気配を見せる
Ⅱ 中山で見たつがいのでき方
1)中山の田んぼ
2)名前をつけた三羽がいた
3)一郎に変化が見えた
4)二郎が一郎を苛(さいな)み始める
5)新たに一羽の雌が現れた
6)巣作りは同時に進む
Ⅲ そりの合わない雄と雌
1)雌が入れ代る
2)雌の長い辛抱の日々が続く
3)変則的つがいについてのまとめ
第5章 タマシギたちの縄張り ─群れて生きるものたち─
Ⅰ 集合場所の雌たち
1)雌の間で挨拶が交わされる
2)雌たちが隠れていた力を見せた
Ⅱ 春先のもう一つの集合場所
Ⅲ つがいが守る空間
1)つがい同士が集まりたがる
2)集まって巣を作りたがる
3)軟弱な地面か仲間か
Ⅳ 「縄張り」は動いていく
中山のつがいたちを振り返る
第6章 命をつなぐタマシギたち ─巣作り・抱卵・育雛─
Ⅰ 雄と雌が巣作りをする
1)繁殖活動の気配が現れる
2)巣作り始まる
Ⅱ 卵を抱くのは雄の正成
1)抱卵を覗き見する若雌がいた
2)お福が新たなつがい相手を見つけた
Ⅲ 雛を育てるのは雄の正成
1)雛は早朝に巣を出た
2)子別れの儀式がある
3)雛たちの食べ物
Ⅳ 記憶に残る繁殖期の出来事
1)道具を使う雌がいた
2)産卵期のイザコザ
3)子別れのもう一つの例
4)見放された一羽の雛
5)雛が混ざり合う
引用文献
あとがき
Contents
Summary
著者

[担当からのコメント]
本書に収められているタマシギたちは、日本が右肩上がりの成長を続けていたそんな時代に生きていました。人間も自然の一部である以上、人の暮らしの移り変わりに鳥たちが影響を受けるのは摂理と言えるのかも知れません。ただタマシギたちが暮らすことができた風景は、私たち人間にとっても失ってはならないものだったのではないか、本書はそんなことを考えさせる作品になっています。

[著者]
中林光生(なかばやし みつお)

1940年 新潟県長岡市生まれ
1966年 関西学院大学大学院文学研究科(英文学)修了
1985年 ケンブリッジ大学に遊学、
    RSPB(The Royal Society for the Protection of Birds)の支部、ケンブリッジ・メンバーズ・グループに所属
2005年 広島女学院大学名誉教授

著 書 『大きなニレと野生のものたち』(共著)文芸社 2004年
    『あるナチュラリストのロマンス』メディクス 2007年
論 文 「湿田のタマシギ」『アニマ』平凡社 1980年
    「野鳥は祠と共にあり」『夏鳥たちの歌は今』遠藤公男編 三省堂 1993年

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