美しき汚れの記号論:アーサー・マンビーとヴィクトリア朝期女性労働者の写真
(著) 吉本和弘
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―禁断の愛でボーリングされたヴィクトリア朝の精神と社会、そして文化―
弁護士であり詩人のアーサー・マンビーと、最下層の雑役女中ハナ・カルウィック。本書は、19世紀後半のロンドンを舞台に、この二人の階級を超えた愛にスポットをあてながら、最新技術であった写真が当時の人々に与えた影響や社会の底辺を支えた労働者階級の実態、そしてヴィクトリア朝文化の精神性を、二人の愛の行方と共に労働や階級、ジェンダーという視点から考察した作品である。ヴィクトリア朝期の文化、哲学、社会、歴史を重層的に捉えた意欲的な論考として、示唆に富む内容となっている。
[目次]
はじめに
第一章 アーサーとハナの物語
Ⅰ アーサー・マンビー
Ⅱ ハナ・カルウィック
Ⅲ 運命的な出合い
Ⅳ 隠されるべき関係
Ⅴ 主人(マスター)と奴隷(スレイヴ)の結婚
Ⅵ 別離
第二章 女性労働者の肖像
Ⅰ マンビー・コレクション
Ⅱ 女性炭坑労働者
Ⅲ 様々な労働の表象
Ⅳ 汚れの演出と変身
第三章 「手」の隠喩と労働の記号論[1]
Ⅰ 「手」への視線
Ⅱ 女性労働者の手とレディの手
Ⅲ 「田舎」と「労働」
Ⅳ 階級とジェンダーの指標としての手
Ⅴ 「汚れ」と「黒さ」
第四章 女性労働者の黒さと男性化
Ⅰ 奇妙な三角関係
Ⅱ 炭坑労働と人種、ジェンダー
Ⅲ 黒人との同化
Ⅳ 人種的ハイブリッドとジェンダー・ハイブリッド
第五章 ハナが観たバイロンの悲劇『サルダナパラス』[1]
Ⅰ 衝撃の舞台
Ⅱ 『サルダナパラス』の悲劇性
Ⅲ 古代帝国への関心とその演出
Ⅳ 没落のイメージとオリエンタリズム
Ⅴ ギリシャ的理想を語る奴隷
第六章 階級・ジェンダーの表象と写真の登場[1]
Ⅰ 「身体」としての英国社会/世界
Ⅱ 二重写しの女性像
Ⅲ 逆転した自己同一化
Ⅳ 写真によって到来した他者としての自己
Ⅴ 美しき「汚れ」の収集
Ⅵ 演劇としての写真
Ⅶ 視線の力学と「他者」の表象
主要参考文献
写真整理番号表
おわりに
著者略歴
[担当からのコメント]
コナン・ドイルにルイス・キャロル、オスカー・ワイルドとヴィクトリア朝時代には現代にも影響を与える多くの文化・芸術が花開きましたが、本書はそのヴィクトリア朝を写真という技術をひとつの手がかりに読み解こうとする作品になっています。知的興奮が刺激される一書として、お薦めします。
[著者略歴]
吉本和弘(よしもと・かずひろ)
一九八五年広島大学大学院地域研究研究科修士課程修了、国際学修士。言語学修士(カリフォルニア大学ディビス校)。
県立広島大学 地域創生学部 地域創生学科 教授
著書に『イギリス イメージ横断――表象と文学』(共編、春風社、二〇一一)、
『英文学の内なる外部――ポストコロニアリズムと文化の混交』(山崎弘行編、松柏社、二〇〇三)、
『映画になった児童文学』(川端有子、水間千恵、横川寿美子との共著、玉川大学出版部、二○一五)、
翻訳書『ルイス・キャロルの実像』(エドワード・ウェイクリング著、楠本君恵、高屋一成、下川徳次監訳、小鳥遊書房、二○二○)がある。
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